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がん免疫細胞療法について
そもそもがんはどうしてできるの?
人間の身体をつくっている正常細胞の遺伝子が、環境やウィルスなどによって突然変異を起こします。そうしてがん細胞に変化することを『発がん』といいます。
がん細胞への変異の途中でがん抑制遺伝子がそれらを修復したり細胞自体を自滅させるなどの働きをします。また、がん細胞が現れてしまっても、数が少ない段階なら、リンパ球などの 免疫細胞が退治してしまいます。しかし、ストレスなどで免疫力が低下したりするとがん細胞は強大な細胞群となりぐんぐんと成長していきます。「がん」が肉眼で確認できる大きさは「1cm」(1億個)からと言われています。
一般的ながん治療
「がん」の治療はがん三大療法と呼ばれる「手術による外科療法」「放射線療法」「化学療法(抗がん剤)」が有名ですが、近年第四のがん治療法と言われる『免疫細胞療法』が注目を集めています
01 外科療法
内容:手術によって「がん」を切除
対象:局所
がん三大療法
02放射線療法
内容:X線や重粒子線などの放射線を照射
対象:局所
第四のがん治療
03化学療法
内容:抗がん剤の投与
対象:全身
04免疫細胞療法
内容:体外で活性化、増殖させた免疫細胞を体内に戻す
対象:全身
がん免疫細胞療法とは
がん免疫細胞治療は一言で言うと
「ご自身の免疫力を高め、身体への負担は極めて少なく副作用がほとんどない療法」
です。種類は数種類ありますが、大きく分けて「1.リンパ球療法(兵隊)」と「2.ワクチン療法(指令)」に分けられます。
リンパ球療法(兵隊)
リンパ球はがん細胞と闘う「兵隊」の役割の細胞です。基本的1対1でおこなわれている「がん細胞とリンパ球の闘い」ですが、「リンパ球を圧倒的に増やす(2週間で約1000倍)」事でがん細胞を抑制する治療法です。
また、ご自身の免疫細胞を増やす治療なので、身体への負担は極めて少なく副作用がほとんどありません。
ワクチン療法(指令)
がん細胞は種類により姿を隠す事が得意な細胞がいます。姿を認識できない免疫細胞は闘う相手を見つける事がでなくなります。ワクチン療法は闘う相手を見つけだし、がんの特徴を兵隊に「指令」をする治療法です。
※手術で摘出したがん細胞が入手できる場合は治療の選択肢が広がります。
「兵隊(リンパ球)」と「指令(ワクチン)」を同時使用する事により、相乗効果も得られます。
他のがん治療と併用ができる治療
がん免疫細胞療法は他のがん治療を受けている方でも併用して受けることができます。
免疫細胞療法で免疫力を高めることにより、「がんの三大療法の基盤」となるべき治療法として期待されています。
がん三大療法
免疫細胞療法の種類
樹状細胞
療法
(DC療法)
樹状細胞自体はがん細胞を攻撃する能力をもっていませんが、がん細胞が発現しているがん抗原を認識し、その情報を細胞障害性T細胞(CTL)に伝える司令塔の役割をします。1個の樹状細胞で、数百~数千個のCTLに情報を伝えることが可能であると言われており、情報を伝えられたCTLは、増殖すると共にがん細胞を攻撃する能力を獲得し、効率よくがん細胞を破壊します。
治療の流れ
WT1ペプチベータ
樹状細胞療法の際に使用するペプチド(がん抗原の一部)は何種類もありますが、WT1はほとんどのがんで産生されているため、WT1ペプチベータは広い範囲のがんに使用できます。
また、WT1ペプチベータは、WT1タンパクの全長をカバーするように設計された100種以上のペプチドの混合物であるため、患者様の白血球の型(HLA型)を問わず、WT1を使った樹状細胞療法が可能です。
※ 文献 1) Jpn. J. Clin. Oncol. 2010;40:377-387 、2) Clin Cancer Res 2009;15:5323-5337
WT1ペプチベータは、細胞障害性T細胞(CTL)だけでなく、CTLを増強するヘルパーT細胞の働きも活発にするため、がん細胞に対するCTLの攻撃力を強力にします。
高活性化NK細胞療法
(NK療法)
NK細胞は、ウイルスに感染した細胞やがん細胞をいち早く発見し、攻撃する役割を持った細胞です。このNK細胞を、体外で大幅に増殖・活性化させてから体内に戻すのが高活性化NK細胞療法です。
がん細胞は、自分を攻撃するよう教育を受けた細胞障害性T細胞(CTL)の攻撃から逃れるために、その目印、標的となる「MHCクラスI」を隠してしまうことがありますが、NK細胞は、そうしたがん細胞であってもNK細胞はNKG2Dという物質(NK細胞受容体)を標的にして、癌細胞を攻撃できます。従って、樹状細胞療法やαβT細胞療法の弱点を補うことができる治療と言えます。また、色々ながんの治療に使用されている抗体製剤(ハーセプチン、リツキサンなど)の効果を高める抗体依存性細胞障害(ADCC)作用があるので、これらの分子標的治療薬と呼ばれる抗体製剤と併用することで、より高い治療効果が期待できます。
治療の流れ
腫瘍浸潤Tリンパ球療法(TIL療法)
がん性の腹水がたまっている方は、その貯留液の中に、体内のがん組織を異物として認識している特異性の高いリンパ球が存在しています。この特異性の高いリンパ球を培養・増殖させ、再び腹腔内に戻す事により、貯留液のコントロールを目的とします。
治療の流れ
γδT
細胞
療法
γδT細胞(ガンマ・デルタT細胞) は、多彩な受容体(情報の受け皿)を持っており、これらの受容体によってがん細胞を多方面から認識して攻撃することが可能です。このため、従来より、がん治療に活用することが考えられてきましたが、血液中の細胞数が少ないため体外で増やすことが難しく、治療に使用することは困難とされてきました。しかし、近年、ゾレンドロン酸を用いて γδT細胞を大幅に増殖・活性化させる技術が確立され、多発性骨髄腫や肺がんなどの様々ながんを対象に、大学病院等で臨床試験が行われています。
治療の流れ
γδT細胞
療法
(NKT療法)
免疫の中で重要な働きをしているT細胞は、T細胞レセプターという周囲から情報を受け取る装置を持っています。その中で、αβ型T細胞レセプターを持つものをαβT細胞、γδ型T細胞レセプターを持つものをγδガンマデルタT細胞と呼びますが、T細胞のほとんどはαβT細胞で、γδT細胞は数%程度に過ぎません。
γδT細胞は、αβT細胞とは異なった仕組みでがん細胞を攻撃できるので、従来から注目されていましたが、少数であるために、がんの治療に使用することは困難であるとされていました。最近になり、γδT細胞を体外で大幅に増やし、がんに対する攻撃力も強化する方法が確立されたために、現在では活発に治療に使用されています。
αβT細胞である細胞障害性T細胞(CTL)は、樹状細胞から、がん細胞を攻撃する際に必要な標的を教えてもらうことが必要ですが(図1)、γδT細胞は腫瘍抗原の情報を必要とせず、すばやくがん細胞を攻撃します(自然免疫と呼んでいます)。また、γδT細胞は、こうした癌抗原の様な標的に依存せず、「IPP」「MIC A/B」といったがん細胞を含む異常細胞に多く発現している物質を目印として攻撃します(図2)。従って、γδT細胞療法は、樹状細胞療法やαβT細胞療法の弱点を補える治療法と言えます。
また、樹状細胞からの情報を必要としないという点では、NK細胞と同じですが、「IPP」を初めとする多様な物質を目印としてがん細胞を攻撃できる点で異なっています。従って、NK療法と併用することで、治療効果が高められる可能性があります。
なお、γδT細胞は、NK細胞と同様に色々ながんの治療に使用されている分子標的治療薬 · 抗体製剤(ハーセプチン、リツキサンなど)の効果を高める抗体依存性細胞障害(ADCC)作用があるので、これらの抗体製剤と併用することで、より高い治療効果が期待できます。
図1
図2
CD3-活性化自己リンパ球療法(αβT細胞療法)
がん細胞を攻撃する免疫反応で中心的な役割を担っているT細胞を、体外で活性化・増殖させてから体内に戻す治療法です。
この治療法で主役となるのは、αβT細胞という細胞で、がん細胞を攻撃する働きがある細胞障害性T細胞(CTL)やヘルパーT細胞といった細胞が含まれます。一方、がん細胞に対する攻撃を抑制する作用のあるTreg細胞は、ほとんど含まれないため、この治療法により、がんに対する攻撃力を高めることができると考えられています。
治療の流れ
ネオアンチゲン樹状細胞 ワクチン療法
ネオアンチゲンとは
ネオアンチゲンは文字で「neo=新しい」「antigen=抗原」と書きます。
正常な細胞には発現しておらず、がん細胞だけにみられる目印です。
がん細胞は、通常の細胞が分裂する際に、細胞内の遺伝子がコピーミスを起こすことによって発生するため、遺伝子レベルでキズ(変異抗原)をたくさん持っています。
この遺伝子の異常が、がんの目印(ネオアンチゲン)となってがん細胞の表面に出現します。
また、ネオアンチゲンは患者さんごとに発生する部位は異なるため、一人ひとり目印も異なります。
☑がん細胞だけが持つ目印、ネオアンチゲン。
☑遺伝子変異(キズ)より生まれる。
☑(患者さんごと)個別に目印は異なる。
ネオアンチゲン療法とは「遺伝子検査を使用した、オーダーメイドのがんワクチン」
ネオアンチゲン療法は、正式には「ネオアンチゲン樹状細胞ワクチン」と言います。
がん細胞のみが持つ目印である新生抗原(ネオアンチゲン)を用いたワクチン療法は、従来型の樹状細胞ワクチン療法より強力な免疫反応を引き起こすことが知られています。
この遺伝子検査による個別化治療は、次世代シーケンサーの登場により、遺伝子変異を解析できるようになりました。
※他の患者さまには使用ができないオーダーメイドのがんワクチンです。
☑遺伝子検査(ゲノム)を使用した、オーダーメイドの個別化医療。
☑がんに対して、強い免疫反応(攻撃力)を引き起こす事が知られている治療。
従来の樹状細胞ワクチンとの違い
従来の樹状細胞ワクチンは、多くの患者さんに共通して発現する目印「共通抗原」を使用します。
この共通抗原はがん細胞に発現していますが、正常細胞にもわずかに発現する特徴があります。
この共通抗原が、わずかに正常細胞に発生する事により正常細胞を攻撃する可能性があります。(副作用の可能性)そして、何より「免疫寛容(※)」が働く事により、がんに対してのリンパ球の攻撃が制限されることもあります。
(※)免疫寛容=免疫が自分『正常細胞』を攻撃しない仕組み。
☑従来ワクチンは「共通抗原」を使用するため、副作用やがんへの攻撃力の制限が懸念される。
ネオアンチゲン樹状細胞ワクチンは、がん細胞特異的に発現し、正常細胞には発現していない新生抗原(ネオアンチゲン)を使用します。
この新しいワクチンは、がんのみに発現する新生抗原(ネオアンチゲン)を目印に、リンパ球が攻撃をします。
そのため、免疫寛容による制限を受けることなく、強力な免疫反応を引き起こすことが報告されています。
また、がんのみ発現している目印のため、正常細胞は攻撃も受けません。副作用が少ない免疫細胞療法の中でも、より副作用が少ない個別化医療と考えています。
☑ネオアンチゲン療法は、がん細胞のみが持つ「新生抗原」を使用する事により、強力な免疫反応を起こす。
☑ネオアンチゲン療法は、より副作用が少ない個別化医療。
ネオアンチゲン療法に欠かせない樹状細胞の働き(司令塔細胞)
このネオアンチゲン樹状細胞ワクチンには「樹状細胞」が鍵となります。
この樹状細胞という免疫細胞は、それ自体はがん細胞を殺す能力を持っていませんが、がんを殺す能力のある免疫細胞(リンパ球)にがんの目印を伝えて攻撃の指令を与える、「指令塔」的な重要な役割を担っています。
樹状細胞からがん細胞の目印を伝えられたリンパ球は、体内でがん細胞を狙い撃ちにして効率よく攻撃できるようになります。
☑免疫細胞の司令塔、樹状細胞。
☑リンパ球(兵隊)に司令をだし、がんを効率よく狙い撃ちさせる。
☑がん細胞を攻撃する能力は持っていない。
がん免疫細胞療法の利点
今の生活の中で治療ができます
副作用がほとんどなく、治療によって体力が低下することも基本的にありません。治療中であっても旅行やお出かけが可能になる場合もあり、ほぼ今までの生活レベルを維持することが可能です。
入院する必要がありません
がん免疫細胞療法は通院治療ですので、入院の必要がありません。
※あまりに症状が重篤な場合は、通院による負担が病状の悪化に繋がる恐れがありますので、ご相談させていただく場合がございます。
副作用が殆どありません
がん免疫細胞療法の多くがご自身の免疫細胞を使用する療法の為、身体への負担は極めて少なく副作用がほとんどありません。
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