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BNCT(ホウ素中性子捕捉療法)とは

BNCT(Boron Neutron Capture Therapy)は、中性子とホウ素の核反応を利用したもので、正常細胞にほとんど損傷を与えず、がん細胞を選択的に破壊する治療法で、初発・単発がんのみならず、個別臓器に広がったがんや転移性がん、難治性がんにも効果が期待できます。

また、通常の放射線治療を行った後でも治療可能であり、再発がんの治療にも効果が期待されるほか、他の治療法とBNCTを併用することによって治療の効果がさらに高まる可能性もあります。

本治療法は、切開や切除を行わず低浸襲であり、患者さんのQOL(生活の質)向上が大きく期待されます。

BNCT(ホウ素中性子捕捉療法)の原理

ホウ素中性子捕捉療法とは、ホウ素(10B)と低速(熱)中性子の核反応によって放出されるヘリウム核(4He原子核:(α線))とリチウム核(7Li原子核)によってがん細胞を破壊するというものです。
    
熱中性子は様々な原子核によって捕獲されますが、中でもホウ素原子核が捕獲する確率は窒素(14N)の約2000倍で、生体を構成する他の元素に比べて桁違いに大きいことがわかっています。

捕獲反応後に放出される2つの粒子はいずれも飛程がごく短く、一般的な細胞の径を超えず、がんに選択的、かつ十分量集積するホウ素化合物があれば、これを投与後に中性子を照射することで、がん細胞だけを破壊することが可能となります。

BNCT(ホウ素中性子捕捉療法)治療の特長

1 正常細胞に対するダメージは通常の放射線治療より遥かに小さい
2 放射線治療後に再発したがんも対象にできる
3 浸潤性のがんや多発がん、放射線抵抗性のがんにも効果が期待できる。
4 治療期間が短い(1~2回の照射で完了、1回の照射時間は30~60分程度)
5 PET検査による治療効果の予測が可能である

BNCT(ホウ素中性子捕捉療法)治療の位置づけについて

患者のQOL(生活の質)を下げずに根治的治療が可能な「放射線治療」は、「外科療法(手術)」、「化学療法(抗がん剤)」と並んで、がんの標準的三大治療法として位置付けられており、現在、様々な技術開発が行われています。

がん放射線治療では広いがん種に対応できる「X線治療」が主役です。「陽子線治療」「炭素線治療」は効果の高い治療法ですが、相当部分が「X線治療」の適応と重なります。

これに対してBNCTはX線治療はもちろんのこと、陽子線治療や炭素線治療では対応が困難ながんにも適応となる可能性があり、将来のがん治療を担う治療法として有望です。 
注)現在は頭頚部癌のみ保険承認されており、他の部位(肺癌、中皮腫、黒色腫、乳癌、肝癌、膀胱癌、多発脳転移等)は治療対象ではありません。

放射線治療との違い

がん選択的放射線療法

定位放射線手術(STS)、定位放射線治療(SRT)、強度変調放射線治療(IMRT)などのX線による高精度放射線治療が臨床で広く普及しています。陽子線治療、重粒子線治療といった大型の加速器を用いた粒子線治療施設も近年急速に広まりつつあります。

特に粒子線は物理的な深部線量を腫瘍領域に集中できる利点や、高い線エネルギー付与(Linear Energy Transfer:LET、放射線が媒質中(生物体内など)を通過する際に媒質に与えるエネルギー)といった高い生物学的な効果に結びつく利点を有し、正常組織の被爆が少ないとされています。

しかし、ブラックピークが利用して線量を腫瘍に集中できる粒子線治療でも粒子が腫瘍に達するまでに、放射線が通過する正常組織への線量は有害事象発生の観点で無視できず、さらに腫瘍のごく近傍や内部の正常組織は腫瘍と同量の線量が照射さることになります。
(出典:BNCT研究会パンフレット「日本の叡智が拓くがん治療の新たなる地平」)
がん選択的照射が可能なBNCTは事情が異なり、GTV(肉眼的腫瘍体積:画像診断で明らかに腫瘍が存在すると判断される領域)内の正常細胞とがん細胞とでは全く異なった線量を受けます。これを下記の DVH(線量体積分布)で示すと違いは明瞭で、正常組織線量とがん組織線量の曲線に全く重なりがありません。

中性子捕捉反応で発生するアルファ線と7Li粒子は、X線やガンマ線と異なり、発生してから止まるまでの距離(飛程)が短く(ほぼ細胞1個分の長さ)、腫瘍細胞周囲の正常組織に与える影響は小さく、真の意味でピンポイント照射であり、「がん選択的放射線治療」と言うことができます。
(出典:BNCT研究会パンフレット「日本の叡智が拓くがん治療の新たなる地平」)

治療効果の予測

BNCT(ホウ素中性子捕捉療法)を実施するには、より多くのホウ素が効率よくがん組織に集積し、周辺の正常組織に集積していないことが重要なポイントになります。BNCTにはホウ素化合物(borono-phenylalanine :BPA)を使用しますが 、集積性は腫瘍により異なるため、中性子を照射する前には腫瘍へのホウ素化合物の集積性を予測することが必要になります。

ホウ素化合物の集積性を測定するために、陽電子放射線断層法(Positron Emission Tomography :PET)を利用します。ホウ素化合物(BPA)に放射性核種18Fで標識した放射性化合物(18F-fluro-borono-phenylalanine :FBPA)を 事前に患者に投与した後、その全身分布をPET検査で画像化することによりホウ素化合物の集積性を推測することができます。事前のPET検査によりホウ素化合物の集積が良好ながんでは治療効果が期待できます。

患者負担の軽減と適応の拡大

BNCTはがん選択的放射線治療として正常細胞への影響が小さいため、X線治療や粒子線治療施行後に再発したがんに対しても治療が可能になります。 また、効率的にがん細胞を破壊する為、他の放射線治療とは異なり1回~ 2回(30分~60分程度/回)の通院治療となり患者さんの負担を軽減することができます。

ただし、中性子は体内に照射し通過する過程で水素原子等に当たりながらエネルギーが減衰するため、深部にあるがん病巣には十分な治療効果を得ることが出来ない場合があります。

今後、加速器の改良やがんへの選択的集積性がさらに優れたホウ素化合物の開発によって、治療可能な領域も広がりBNCT適応症例も拡大する可能性があります。

BNCTの副作用について

BNCTではホウ素の薬が集まる腫瘍しかダメージを受けない、と説明されがちです。 しかし、実際には正常組織の一部にもホウ素薬剤が集まりやすいものがあり、これらの正常組織ではダメージを受けて副作用を生じることになります。

頭頸部癌では、だ液腺のはれ、吐き気や食欲の低下、口内炎、脱毛などが生じます。 以下の図は、頭頸部癌でのBNCTにおいて代表的な副作用の発症頻度と、発症の時期と回復の時期が示されています。

治療後の早期におこる副作用

回復まで長期の経過を要する副作用

(引用元: Hirose, Sato, Takai, et al. Profile analysis of adverse events after boron neutron capture therapy for head and neck cancer: a sub analysis of the JH N002 study. Journal of Radiation Research 2022)

患部の場所や状態によって、これら以外にも多彩な副作用が生じますので、治療前に詳しく説明させていただきます。

治療効果評価

PET-CT検査による治療効果の評価

ホウ素薬剤のがん細胞への集積度合をFBPA-PETという核医学検査により、あらかじめ確認することができます。
これにより、

・ホウ素薬剤が腫瘍にどのくらい取り込まれるか
・腫瘍の位置と範囲

を画像として得ることができます。
がん治療に際して、がんと一般の炎症とを見分けることも重要です。FBPAという薬剤は、炎症部位には集まりにくく、がんと炎症を見分けるのにも優れています。
今後BNCTの適応がんの拡大を図る上でも、FBPA-PET検査は重要な役割を果たしています。
悪性脳腫瘍

腫瘍へのホウ素集積度が正常脳と比較して約6倍程度であり、BNCT適応と判断された。

(画像 : 大阪大学大学院医学研究科 畑澤 順先生 提供)
頭頸部腫瘍

残存腫瘍の評価のため、FBPA-PET施行。 腫瘍の存在・位置・大きさを明確に把握することができた。

(画像 : 大阪大学大学院医学研究科 畑澤 順先生 提供)
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